阪本美和さん・50歳
レザー専門商社・代表取締役
人懐っこい笑顔に、白のブラウスに合わせた、自社オリジナルの黒のレザーのサロペットスタイルが、何とも大人シックなファッションで取材先に現れたのは、創業70年を誇る、祖父の代から三代続いている家業を引き継いだ阪本美和さん。
レザー専門商社として、さまざまな革素材や革アイテムを紹介するプロデュース業に日々奔走している。
「旅が好きで社会に出てからJALのグランドホステスをしていました。その後ソニー株式会社に入社。寿退社をしまして、翌年娘の出産を機に仕事から離れて専業主婦をしておりました。10年間ほど、社会から離れていたのですが、家業の後継者がいなかったことをずっと気に留めていたことから一念発起し、自ら志願して家業に入りました」
「仕事と家庭の両立は本当に大変でしたね。娘を私学に通わせていたこともあり、15年間お弁当作りや季節ごとの学校行事も多くありました。やるべきことが多くていわゆるママ友のお付き合いにはなかなか参加はできませんでしたが、優先順位を決めて時間をやりくりしながら本当に慌ただしく過ごしていました。両立が難しく私自身が完璧にできない分、娘には自己成長する環境を整えることへ意識をおいて教育していました。家事のお手伝いとして楽しみながら良く一緒に料理をしていたせいか、今では娘が料理を作っておいてくれることもあり、私の忙しい姿を感じ取って成長してくれた喜びもあります」
「家業の生産背景を閉業し、事業体制を変革し始めた矢先にちょうどコロナが始まりました。そのタイミングで、夫と別居したんです。学校がお休みの時期でも、私の仕事はあるので、娘が精神的に不安定なときもあり、心配で仕事が手につかない時もありました。世の中の先行きも分からない。皮革業界の打撃も大きく、得意先の倒産や生産の縮小で年先の仕事もどうなるのか、先が見えない暗黒時代でした」
継続は不可能かと一度は家業を整理しようとも思いましたが時代の流れに合わせて事業転換しながら既存事業の知識を生かし新しいビジネスの芽も育てていきたいと阪本さんは語る。
「革づくりにおいても日本の技術力・開発力は、世界でもトップクラスだと思います。この数年は新素材の開発にも携わっておりますが、世界に誇れるような素材も出来上がってきています。そういうものが少しずつ形になり、皆様のもとに届いていると、やはり継続してよかったと実感しますね」
「開発に時間をかけた豚革の撥水スエードはバッグだけでなくメンズのライダースをはじめとするファッション小物などになっています。今まででしたら、雨の日のレザーは懸念されていましたが、雨や汚れを弾く撥水力の高いスエードを開発。逆に雨の日こそ持って、着ていただきたいというのを売りにしている素材です。開発には時間もお金も要しましたが、素材の付加価値と丁寧に作り上げられた品質の良さから需要も増えて今では日本のみならず、イタリアブランドのブルゾンやスポーツブランドのスニーカー、バッグや小物など少しずつ形になってきたのが嬉しいですね」
実はリアルレザーこそSDGs
その認識を広めていく活動をしている
「今は、人工皮革にもレザーと名前がついてしまうぐらいなのですが例えば皆さん、SDGsとして人工のレザーを選ばれるのは逆なのです。安くて見た目のよいフェイクレザーも増えていますが、長持ちしないものがほとんどでケミカルなものを作る時も、捨てる時も地球環境への負担がかかります。一方でリアルレザーこそ長持ちしますし、地球に優しくてとってもエコでSDGsなんですよ。日本は豚肉を多く食する国で食用になった後の皮を生かして余すことなく作り上げるものが、本当のリアルレザー。動物の命を大切に再生している、それこそがSDGsなんです」
エコでサステナブルな天然素材の「本革」のアイテムを広めていきたい。
「豚の皮は日本で100%需要と供給ができる天然の副産物なのです。牛の皮などは、大半が北米などからの輸入原皮、100%需要と供給が賄えるのが、豚革。豚って本当に素晴らしいんですよね。お肉も美味しいですが、コラーゲンやサプリ、豚毛のブラシに活用されたりと無駄なものがひとつもなく、生育から加工まで全て国内で完結できる唯一の素材です!
日々いろいろありますが
ご機嫌な笑顔でいられるように心がけています。
取材中も、笑顔と笑い声が絶えなかった阪本さん。
コミュニケーション力も高く、人から好かれる雰囲気に包まれている。
「もちろん仕事やプライベートで、日々いろいろなことがありますが気付くと笑っていることが、ほとんどかもしれませんね。笑うことが一番の元気!娘もそういう私の背中を見ていてくれているといいですね」
趣味はゴルフとお料理
「大好きな愛犬との時間が何よりの癒しのひとときです。趣味はゴルフとお料理。お料理している時間は無心になれるので、ストレス発散になれるのが好きです。食べることも好きで40歳を過ぎたあたりから、食材や調味料にもこだわるようになりましたね。なるべく添加物を摂らずに、一食、一食、身体に良いものを食べたいという思いが強くなりました」
阪本さんの家業は墨田区にある。
以前は80社あった豚革の工場は、現在では、僅か10社になってしまったという。
家業を引き継いだ当初は、男社会の現場で昔ながらの頑固な職人さんたちに相手にされなかった経験も。持ち前の明るさと、笑顔を絶やすことなくコミュニケーションを取り、風通しのいい現場へと変えていった。朝日が昇る前に出勤し、革の色合わせに余念がない職人さんたちの姿を目の当たりにしたときには、日本の繊細な物づくりへの情熱を感じたという。
10年後は何をしていたいですか?
女性が入りやすい現場
若い人材が
働きやすい環境をつくっていきたい
「革づくりの現場を考えると10年後にどうなっているだろうか…。後継者の問題、技術継承、人手不足、自動化の遅れなど課題は山積みだと思います。いま私にできることは、残っている僅かな工場や熟練の職人さんの技術を守り伝えていくことですが、それには革業界のイメージを変えることも大きな改革だと思っていて。職人さんになりたいと志願する女性や若い人材の雇用をサポートし繋げるプラットホームを作り、これからは女性が心地よく働ける現場や会社をつくりたいです。まだまだ男性社会の業界ですが、女性ならではの対応力や細やかさが活かせる部門はたくさんある。私は総合窓口として人材の育成、自分らしい働き方を見つけられる環境を整え、間口を広めていきたいですね。10年後は女性だけの現場を作って、新たな革の魅力を生み出す会社を作りたいです」
三恵産業
革のオンラインサイト
https://sankeisangyo.shopselect.net
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text:MIYUKI NEZASA
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