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自立のために選んだ美容師がいつしか天職に

ヘアメイクアーティスト ヘアサロン「アンベリール」代表 高橋亜季さん・44歳

ヘアメイクアーティスト
ヘアサロン「アンベリール」代表
高橋亜季さん・44

ヘアサロン激戦区・表参道に
二店舗経営するまで

──もともと、小さい頃から美容師にはなりたいと志していたのでしょうか?

自立したい願望の先に見つけた美容師という仕事。
仕事を始めてから、すごく大好きになった。

それが実は小さい頃からというわけでもなく、中高生くらいとのきに「一人で生きていける仕事は何だろう?」と漠然と考えていたんです。その頃、田舎ということもあり身近に知っている仕事があまりなく、自分の生活にあるものしか知らなかったんです。その中で、一人でちゃんと自立していける仕事を模索しているときに、ファッションも好きだったので美容師をやってみようと思ったのが、この世界に入ったきっかけです。

実際にやってみたら、美容師っていろいろな可能性があるなと。ヘアメイクもそうですし、面白い仕事だなと思って。なる前より、逆に美容師になってから、この仕事がすごく大好きになったんです。

──中学生でかなり達観していて、自立心が旺盛だったんですね。

少し冷めていたところが、あったのかもしれないですね(笑)。
結婚もするかどうかも分からないし、どこで暮らしていくかも分からない。
ひとりでちゃんと生きていけるようになろうって。

──そこから高校を卒業し、美容師の専門学校へ行くことに。
現在、ヘアメイクアーティストとしても雑誌などでも活躍する高橋さん。
もともと手先は器用だったのか伺ってみると……。

美容専門学校を卒業後は地元に戻り美容師に。
そこから一大決心してロンドン留学に

いやそれがそんなことはなく(笑)。子供の頃に髪の毛を触るのも好きだったというエピソードもないのですが、実際にハサミを持ってみると、不思議とそんなに抵抗がなかったんです。美容学校を卒業した後は、一度地元に帰ってサロンで働き始めました。
そこからもっといろんなことをやりたいと思い、ヘアメイクの勉強をするために
一年間ロンドンに留学することにしました。

──ロンドンを選んだ理由は?

当時ヴィダル・サスーンが注目されていて、カット理論が日本でもベースになっているものが多かったんです。ロンドンにはそのスクールもあって、ヘアメイクの勉強もできるということで決めました。ロンドン時代は毎日がとにかく楽しくて。
ヘアメイクの勉強になりましたし、いろんな国からの留学生がいらっしゃるので美容以外のことでも、すごく刺激を受けましたね。

ロンドン留学中の高橋さん

ロンドン留学中の高橋さん。

──ロンドン留学での思い出は?

一番は技術的なことですが、美容の可能性をものすごく感じましたね。
留学時代はとにかくお金がなかったので、毎日ポテトを食べていました。
フィッシュアンドチップスも食べられなかったので、ポテトだけ(笑)。
日本人の方を相手に、お客さんになってもらいカットをしてバイトをしたりしていました。
狭いシェアハウスに住んでいたのですが、お湯が出なかったり、出てもチョロチョロしか出なかったりと、日本と違う生活環境に最初は戸惑うことも多かったですね。
あるとき、バスに乗っていたらお金を狙ってか、後ろから持っていたバッグが切り刻まれるという怖い思いもしたこともありました。

楽しい日々はあっという間で、1年間の留学予定が迫る中、
日本に帰国するか、ロンドンのサロンで働くかの選択ですごく悩みました。
帰りたくないなという思いもあったのですが、もともと留学する際にいろいろお世話になった先輩に相談したんです。そしたら「ロンドンは楽しいけど、正直、現実ではないよ」と。毎日楽しくて刺激的な毎日を過ごせるかもしれない。ロンドンに骨をうずめるつもりでやるならいいけど、何年かで帰国するんだったら、早く日本に帰って成果を出したほうがいいとアドバイスを受けたんです。そこで悩んだ末、帰国することを決意しました。


──日本に帰国後は、地元には戻らず表参道の有名サロンに入社する。
当時はまだ今よりも上下関係が厳しい美容室業界。
既にスタイリストにはなっていたものの、新しいサロンでイチからスタートする。

とにかく時間がなかったですね。朝から晩まで、もうサロンに住んでいるくらいの勢い(笑)。忙しすぎて、あまり記憶がないんです。

アシスタント時代の高橋さん(右)と現在のヘアサロン共同経営者の鈴木さん(左)
アシスタント時代の高橋さん(右)と現在のヘアサロン共同経営者の鈴木さん(左)。

サロンでの技術はもちろん、礼儀や上下関係をいちから教えていただいたことに
とても感謝していますね。
時代が変わっても、その礼儀は大切だと思います。

──高橋さんが働いていたサロンは、日本髪やパーティヘアなど手掛け、着物雑誌のヘアメイクを担当するなど、サロンワークだけでなく幅広く活動しているサロンでした。

都会の素敵なマダムが通うサロンで
上質なヘアメイク、空間、会話を学ぶ


お客様にはすごく恵まれていましたね。素敵な方々が多かったので、ちょっとした会話の仕方や嗜みですとか、洗練された大人の世界を見ることができたのは、すごくいい経験になりました。先生が着物のヘアメイクの撮影の際には同行させていただき、現場での立ち振る舞いなど勉強させていただきました。初めての撮影のときに怒られたことも、今では忘れられないいい思い出です。


──表参道のサロンで10年間働き、その後独立することになる。

もともと独立しようとずっと思っていたわけではなかったのですが、やっていく中で自分の中でいろいろ葛藤がでてきました。自分が思うようなサービスをしたいと思ったら、結局自分でやるしかないと、決意して独立することに行き着きました。
とはいえ、これからどうしようかなと悩んでいたときに、同じサロンで苦楽を共にしていたスタッフに相談。ちょうど彼女も海外に行くタイミングなどが合致して、サロンを一緒に経営することになったんです。それが33歳のときでした。

──独立する際に、苦労されたことはありましたか?

ヘアサロン激戦区の表参道
はじめは物件探しに苦戦

とにかく最初に物件探しでつまずきましたね。場所は表参道と決めていたのですが、思うような物件がなく。もう表参道の不動産中に知れ渡ってブラックリストに載っているんじゃないかと思うくらい(笑)、かなりの件数を見ましたね。やっと出会えた今の物件は、内装を好きにでき、駅近でありながらまわりの雰囲気も落ち着いていたので即決しました。
たくさんのお花
サロンオープン時にはたくさんのお花が届く。
大人の女性がくつろいでいただけるプライベートサロン
サロンのコンセプトは「大人の女性がくつろいでいただけるプライベートサロン」。
ありがたいことに思っていた以上に、前のサロンからのお客様が来ていただいたことも
あり、スタートアップしてから軌道に乗るまでは、そう長くはかかりませんでした。

──3年前には2店舗目をオープン。コロナ禍ということもあり、なかなか軌道に乗らなかったが、今ではスタッフとのコミュニケーションもスムーズになり経営も上向きに。

ロンドン留学中に出会った彼と結婚
そしてサロンをオープン

そんなバタバタとしている中、家のことは夫がサポートしていてくれたので本当に助かりましたね。結婚したのは、ちょうど独立してサロンをオープンする少し前。
ロンドン留学中に語学勉強中の彼と出会い、私が帰国する前につきあい始めてから10年経って結婚しました。

普段の生活は、サロンの営業時間が20時までなので、21時くらいまでには帰宅。
他のお母さまと比べたら、子供と一緒に過ごす時間が圧倒的に少ないので、その葛藤は
日々あります。その分、時間を意識して作り、集中して子供と向き合うようにしています。

──仕事と家庭の両立、これだけは死守しているものはありますか?

いつも機嫌よくいられるように心掛けています。
ストレスをためないように、大好きなショッピングはシーズンに2、3回ほどお洋服と化粧品をまとめ買いすることも!
娘さんとの2ショット
娘さんとの2ショット。今では4歳になるそう!

これからは、自分も含めサロンスタッフみんなが自分の人生と、仕事と家庭をしっかり両立してもらえるようなサロンづくりをしていきたいと思っています。

         


ENBELLIR
アンベリール
ENBELLIR
大人の女性がくつろげるプライベートヘアサロン。
スタッフ全員が毛髪アドバイザーの知識を生かした髪の美しさにこだわったケアにも定評がある。
https://www.embellir.jp.net/

text:MIYUKI NEZASA
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