「江戸の粋に学ぶ淑女のお作法」連載最終回となる6回目のテーマは「江戸の感性から学ぶ魅力的な女性の心得」について。江戸時代のコミュニケーション術を「えどのいき」を発信している前田さんにお聞きしました。
植松氏(以下敬称略)
江戸時代の有名な女性と言えば春画で一世を風靡した「笠森お仙」ですよね。「お仙」という名は耳にしたことがありますが、実際にそんなに人気だったのですか?
前田氏(以下敬称略)
江戸時代の茶屋娘といえば、それぞれに人気がありましたけれど、その中でも特に評判になったのが笠森お仙なんです。谷中の笠森稲荷の境内にあったお茶屋の「鍵屋」の娘で、浮世絵師の鈴木春信の美人画のモデルになったことで、江戸中に名が広まったんです。やがて「明和の三美人」のひとりに数えられるようになりました。身近に会える存在でありながら、同時に手の届かない憧れでもある。AKBのブームと似ていますね。その噂を聞きつけて、わざわざお仙を一目見たいとお店を訪れる人が後を絶たなかったそうです。参拝よりも、お仙見物の方が目的になってしまうほどだったとか。当時は、美人画や手ぬぐい、すごろくに絵草紙まで「お仙グッズ」が次々と作られて、さらには狂言や歌舞伎にまで取り上げられるんですから、もう立派なスターです。
植松
今でいう「推し」ですね。
前田
ただ、人気の理由は見た目の美しさだけではなかったようです。江戸の町というのは火事や喧嘩など、今よりもずっと物騒なことが多い場所でしたから、そんな中で、お仙は落ち着いたアルトの声でお客様に応対したと伝えられているんです。そして気の利いた受け答えに、どこか品のある立ち居振る舞い。そうした全てが合わさって、彼女の魅力になったのではないかしら。
植松
騒がしくなくて、いい意味で控えめ、気が回って明るいこと。そして粋であることがポイントですね。時代を問わず、上品で賢い振る舞いがその人の魅力を作り上げるということ。毎日の生活の中で気遣いを続ければ、誰もが魅力的になれるはず。江戸の粋から学ぶことは、今の時代の女性を輝かせるヒントになりそう!
前田
はい。プライベートではもちろん、社会で活躍していくうえでも、商人が活躍し、多彩なコミュニケーションが繰り広げられた「江戸」という時代に学ぶことで、スムーズな人間関係を築けるのでは。
植松
この連載を読んでコミュニケーションについて、いつもと違う角度から考えることができた人も多いと思います。前田さん、ありがとうございました!
text:AYAKO TAKAHASHI
2025.10.31