1994年の開業以来、パーク ハイアット 東京は日本のラグジュアリーホテルの頂点に君臨し続けてきました。東京の喧騒から離れた「天空の隠れ家」として、また映画『ロスト・イン・トランスレーション』の舞台として、世界中のセレブリティや審美眼を持つ旅人たちを魅了してきたのは周知の通りです。
過度な装飾を排し、タイムレスで洗練されたデザイン、そして一人ひとりに寄り添うパーソナルなサービス。これまでの「パーク ハイアット 東京」が築き上げてきたのは、単なる宿泊施設ではなく、一つの完成された文化でした。
しかし、誕生から30年という節目を迎え、ホテルは今、次なるステージへと向かうための大規模なリニューアルへと舵を切りました。これまでのアイデンティティをいかに守りながら、現代の旅人に求められる「真のラグジュアリー」を再定義するのか。今回の刷新は、日本のホテルシーン全体にとっても大きな転換点となるはずです。

今回のリニューアルの一部は、パリを拠点とするデザインスタジオ「ジュアン マンク」が担当。同スタジオは、インダストリアルデザイナーのパトリック ジュアンと建築家サンジット マンクが2006年に設立したチームで、マラケシュの「ラ マムーニア」やパリ「モンパルナス駅」再開発、ヴァン クリーフ&アーペルのブティック、フォントヴロー修道院のホテル化など、文化的価値の高い建築プロジェクトを数多く手がけてきました。
ホテル全体をより静けさと温もりに満ちたサンクチュアリのような空間へと刷新。素材の柔らかさや光のゆらぎを活かし、心がゆるやかに解きほぐされる現代的なレジデンシャルスタイルへと進化しています。
新しい客室は、落ち着いた色調のキャビネットや柔らかな木材の風合い、しなやかな曲線を描く家具や照明が穏やかな雰囲気を生み出しています。入口から窓辺へと自然に誘う動線設計により、時間の流れがゆっくりとほどけていくような滞在が叶えられています。

また、開業当時から受け継がれる象徴的な要素も随所に取り入れられました。イサムノグチの和紙ランプや、マグノリア(泰山木)の葉をあしらったベッド上部のアートワークなど、ホテルの物語を紡いできた意匠が、新たな空間の中で静かに息づいています。壁面を飾るモダンアートは光と影の豊かな表情を引き出し、落ち着いた奥行きを加えています。

バスルームはシャワーとバスタブをひとつの空間にまとめた日本の浴室文化から着想を得ており、入浴そのものが深い静寂と向き合う体験となるよう意図されています。

スイートは、ジュアン マンクのデザインをより深く取り入れ、邸宅のような親密さと落ち着きを湛えた空間へと進化しました。特注家具や素材の陰影が静けさと華やぎを生み、眺望と光が重なることで独自の体験が広がります。象徴的な「トーキョー スイート」は、オリジナルデザインを忠実に復元しました。

リニューアルを経て、ハードウェアとしての新しさを手に入れたパーク ハイアット 東京。しかし、私たちがこのホテルに期待するのは、単なる真新しい設備だけではありません。それは、あの静謐なライブラリーを抜けた先に広がる高揚感や、都会の喧騒を忘れさせる贅沢な静けさ。そして、ゲストの期待を静かに超えていくスタッフのホスピタリティといった、目に見えない「パーク ハイアットらしさ」の進化です。新しく生まれ変わったその空間は、これからも私たちに「東京という都市を旅する喜び」を教え続けてくれることでしょう。
パーク ハイアット 東京
text:KAZUMI KAWAKAMI
2026.02.17