昨今、巷では幹細胞というワードを耳にすること、目にすることが増えてきました。幹細胞や幹細胞培養上清液配合コスメ、エクソソームの点滴など、美容に興味のある人なら一度は見たり聞いたり使ったりしたことがあるのではないでしょうか。一方で、興味はありつつも、幹細胞やエクソソーム、幹細胞培養上清液を実はちゃんと知らないという人も。今後ますます広がりそうな幹細胞美容について、アヴェニューセルクリニックの辻 晋作先生に教えていただきました。
幹細胞って何のこと?
人間の体を樹木に例えると、1本の大きな幹が受精卵です。大きな幹から枝分かれして3つの幹ができ、それぞれ外胚葉、中胚葉、内胚葉となります。外胚葉は皮膚や神経など、中胚葉は骨や筋肉、脂肪など、内胚葉は消火器や肺、腎臓などと決まっています。
そこからさらに幹ができますが、分化すればするほど行く道が決まります。ただ、その分かれた先もいわば細めの幹にある幹細胞なので、実は体のどこにでも存在していると言われています。ダメージを受けると幹細胞が増殖しそれぞれの組織の回復の道に続けると考えられています。しかし、心臓だけはダメージを受けるとそのようには二度と再生しません。
この文章に出てくるiPS細胞は人工的に作った幹細胞で受精卵と同じ機能を持った何にでも分化できる一番太い幹であり、間葉系幹細胞は太い幹から枝分かれした細い幹に例えられる幹細胞です。

幹細胞治療には方法としては、大きく分けて2種類があります。ひとつは臓器や組織を作る組織工学です。「幹細胞自体を体内に戻すのではなく体外で幹細胞から分化させた人工の臓器や組織を作って体内に戻す」方法です。iPS細胞を用いた治療の典型です。もうひとつは、アヴェニューセルクリニックのように幹細胞を取り出して増殖させて「幹細胞のまま体内に戻し」、薬のように使う方法です。これには間葉系幹細胞という幹細胞が多く用いられています。間葉系幹細胞は中胚葉の中の幹細胞です。骨髄や脂肪組織、歯髄(歯の中)、胎盤などの幅広い組織に存在します。
幹細胞が注目されるのはなぜ?
幹細胞の特性から、損傷した組織や臓器を修復・再生する可能性があります。実は、血管と脳の間にはバリアがあって薬が届かないと言われているため脳の治療薬はあまりないのですが、前述の間葉系幹細胞を薬のように用いることによりの疾患に対して治療ができる可能性があります。
一方、iPS細胞による治療はまだ普及までの途中にあります。人工臓器を作る可能性があるものでまさに再生医療の花形ですが、臨床応用にはいくつかの課題があります。しかし、iPS細胞を使って病気のモデルを作り、新薬の開発に役立てられています。医療に必要不可欠な創薬にiPS細胞は大きな役割を担っています。

幹細胞培養上清液とエクソソームとは?
間葉系幹細胞を増殖させる際に、液体状の培地の中に入れると細胞はフラスコの底に接着します。そして培養液の中に幹細胞は多くの成分(液性因子)を放出します。その細胞が培養された培養液を培養上清と呼びます。そして、培養上清のなかで、培養中の間葉系幹細胞が分泌する様々な成分の中に含まれる一番小さい成分がエクソソームです。細胞間の情報伝達など重要な働きをするといわれています。
気をつけることは、同じ細胞でもAという培地で育てた場合とBという培地で育てた場合では、その中の成分が違ってきます。わかりやすく言うと、甘い砂糖の中と辛い塩水の中で育てたら味が違うでしょう。だから、単に幹細胞培養上清液といっても、どのような細胞培養液を用いているの?培養過程のなかでどのような状態のもの?など多くのバリエーションが存在すると想像できると思います。
液性因子は変化することが出来ませんので体に合った液性因子であれば目標とする治療に合致した効果を出すことができるかもしれませんが、逆効果のこともあり得ます。甘い調味料が必要なお鍋(体)に塩(逆効果のエクソソーム)を入れてしまうことがあるということです。
一方、我々の実験では異なった状態の体の中に全く同じ幹細胞を培養して戻すと、体内で変化してそれぞれ別の液性因子(たんぱく質やエクソソーム)を分泌してくれることがわかっています。つまり、幹細胞は体内で変化ができるのです。甘い調味料が必要なお鍋(体)に幹細胞を入れるとそれを感知して砂糖(適したエクソソーム)を放出する可能性があると考えています。
また、他人の細胞から作られた液性因子の場合は、感染などのリスクも存在します。今はまだわかっていない感染症が隠れているかもしれないのです。

幹細胞が流行っているけれど安全なの?
日本では2014年に再生医療等安全性確保法という法律ができました。再生医療を国民が迅速かつ安全に受けられるようにするための施策です。
保険診療に代表される標準治療ほどの医学的エビデンスはなくともいち早く患者さんに届けるために一定の妥当性があれば、最低限の安全は担保しつつ、臨床治療をスタートするというスタンスで始まりました。もちろん完全な安全性や妥当性は開始当初では確定できないため、医者は1年間に治療した患者様についての安全性と妥当性を定期報告する義務があります。再生医療は3つにリスク分類されており、iPS細胞を用いた治療は第1種(高リスク)、培養間葉系幹細胞を用いた治療は第2種(中リスク)に分類されています。
再生医療をお考えの場合は、再生治療提供計画を届出しているクリニック一覧が厚労省のHP(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/saisei_iryou/index.html)に出ているのでチェックしてみてください。
また、国は認可しているわけでも許可している訳でもありません。医療施設で治療を行いますという届出を受理しているだけです。届出をせずに治療をしている医療施設は違法で論外ですが、国が認めた治療だからというのは間違いです。再生医療等安全性確保法のもとに届出されている医療でも自由診療のひとつであり、責任は医師にあります。治療方法や培養方法などはそれぞれの医療施設の医師が説明できなくてはならないという決まりです。十分にご相談の上臨むことをお勧めします。
現在、市中に出回っている上清液やエクソソームは試薬扱いですから、効果があると言うと違法となります。体内に入れる医薬品は承認製品を除けば、「医師が自分の医療施設内で自分で製造するもの以外」は本来は投与するべきではありません。承認されている製品は一つもありませんし、化粧品においてはエビデンスは今のところ何もありません。ですから、上清液やエクソソームを謳っているものは、よく考えてから使うことをおすすめします。

我々アヴェニューセルクリニックは上清液やエクソソームを利用した治療は行っていません。再生医療安全確保法のもと、国に届出をしている幹細胞を用いた治療でも絶対に治る、よくなるという保証はまだありません。流行にまどわされず、信頼できる医者とよく相談してください。
毛髪の加齢性変化による減少に対する
自己脂肪由来幹細胞を用いた局所注射療法

BEFORE

AFTER(2回治療後)
顔面や首などの皮膚の加齢性変化に対する
自己脂肪由来幹細胞を用いた局所注射療法

BEFORE

AFTER
◆お話を伺った先生

辻 晋作先生/再生医療統括医師
東京大学医学部卒業後、東京大学形成外科、東京警察病院などを経てアヴェニューセルクリニック再生医療統括医師として勤務。東京大学や大手企業などと協力しながら培養幹細胞治療の研究と普及につとめている。
・医学博士
・日本専門医機構認定形成外科専門医
・日本再生医療学会再生医療認定医
・日本再生医療学会認定細胞培養加工施設管理士
・一般社団法人再生医療イノベーションフォーラム
・特定細胞加工物等委員会細胞加工部会長
アヴェニューセルクリニック
自分自身の脂肪由来幹細胞を自己施設で最初から最後まで培養し、直接皮膚に注射・関節内に注射・点滴により全身投与できる再生医療総合クリニック。

東京都港区南青山3-18-16 ル・ボワビル3F
TEL:0120-382-300 / 03-3796-5511
https://www.acell-clinic.com/
※厚生労働省「再生医療について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/saisei_iryou/index.html
text:ERI NAKAO